東海大学は大手メーカーなどと共同で開発を進めていたソーラーカー「

東海大学は大手メーカーなどと共同で開発を進めていたソーラーカー「Tokai Challenger(東海チャレンジャー)」の平成29年版を公開した。10月8~15日にオーストラリアで開催される世界最高峰のソーラーカーレースに、学生主体の「東海大学ソーラーカーチーム」がこの車両で出場する。開発にはパナソニック東レブリヂストンも参加し、それぞれが最先端技術を持ち寄るなど、日本の環境技術の「ショーケース」となっている。それだけに企業側にも東海大にもさまざまな思惑が込められている。

 なかでもパナソニックは研究開発段階の高性能の太陽電池セルをこのソーラーカーに提供した。太陽電池パネル内部のシリコン膜と電極、基板とをつなぐ接合部分を改良し、発電効率を従来(27年時点)の23.2%から24.1%と世界トップレベルの水準に高めた。

 東レ炭素繊維中間基材「プリプレグ」を提供した。車体に使われている。子会社の東レカーボンマジック(滋賀県米原市)の工場で、プリプレグを細かく裁断したあと、オートクレーブという装置を使い高温高圧環境下でかたちを整える。この方法は、航空機やレーシングカーの筐体(きょうたい)を作るのに用いられる。

 タイヤに関しては、ブリヂストンからパンクしにくいレース専用のものが提供された。世界中のソーラーカーレースやモータースポーツの大会では、路上の鋭利な石でタイヤの表面に傷が付き、パンクしやすいことから、耐久性を重視しつつ、転がり抵抗も減らすなどの工夫を凝らした。

 このほか、設計段階での空力抵抗のシミュレーションには、ソフトウェアクレイドル(大阪市北区)の流体解析ソフトを使ったほか、車両のサスペンション(緩衝装置)には油圧機器大手のKYB、軸受けにはジェイテクトがそれぞれ提供した。

 さらに太陽電池モジュールを覆う影による発電量低下の影響を防ぎ、出力不足を防ぐ「PVバランサー」という装置を三島木電子(水戸市)が開発するなど、大手から中小に至るまで約40社が東海大学のソーラーカーに関わっている。

 ではなぜメーカーは東海大学チームを支援するのか。

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 東海大学の国内外のソーラーカーレースへの参戦の歴史が長く、初参戦からちょうど25年となる。過去には、南アフリカ共和国で開かれた「サソール・ソーラーチャレンジ・サウスアフリカ」で平成22年から3連覇を果たすなど、世界的にも強豪チームのひとつ。そのチームに技術や部品などを提供できれば、車体に会社のロゴなども掲出される。優勝すれば世界的に報じられ、広告効果も期待できる。

 ところが東海大学や企業にとって期待するのは、広告効果よりも別のところにある。太陽電池セルを提供するパナソニックは、23年から住宅用の太陽電池モジュール「HIT」を販売している。トヨタ自動車が今年2月に発売を始めたプラグインハイブリッド車プリウスPHV」にもこのHITが使われている。パナソニックエコソリューションズ社エナジーシステム事業部の吉田和弘・ソーラーシステムビジネスユニット長は「平成23年から東海大学のチームにスポンサーとして協力している。プリウスPHVへの供給に関しても、東海大のレースでの知見が生かせた」と話す。

 東海大のチームが参戦する「2017ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」は、同国北部のダーウィンから南部のアデレードの約3000キロを走破する。コースの途中には灼熱(しゃくねつ)の砂漠地帯もあるなど、悪条件との戦いでもある。レースに参戦して上位入賞となれば、そうした過酷な環境に耐えられることが証明されることになる。

http://www.freeml.com/bl/15765187/351792/
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 大学や企業にとっては即戦力となる人材育成の面で有効だ。東レも平成23年から東海大のチームを支援している。東レカーボンマジックでの成型工程には、同社の社員と東海大の学生がいっしょになって関わる。東レの奥村勇吾・産業材料部長兼自動車材料戦略推進室主幹は、「学生に対し、最先端のものづくりの現場経験の場を提供できる」と話す。

 こうした産学連携の成果から、東海大学のソーラーカーの主要部品のほぼすべてが日本のメーカーのもので占められる。ただ舞台は世界。勝つためには、日本製にこだわる必要はないのではとも思えるが、チームの総監督を務める木村英樹工学部電気電子工学科教授は、「そんなことはない」と言い切る。

 海外企業との連携となると、距離が離れているため、開発に際し綿密なコミュニケーションが取れないという。「日本国内だったら、技術者も行き来しやすいし、一から部品を作り込むとなると、日本企業との方がスムーズ。しかもその技術レベルは高い」と、木村教授は日本にこだわる意図をこう語った。

 車両製作にも携わり、プロの技術や技能を学生にも伝えていける。参戦の過程で学生はあらゆることを吸収し、社会で即戦力として活躍できる。東海大学にとっても、ソーラーカー参戦は「ひとづくり」につながっているようだ。(経済本部 松村信仁)